10/30/2007

まだ見ぬ川 Humpy Creek ⑤

~トレイルヘッド(登山口)はどこ?~

Humpy Creekの河口付近は、いくつかのトレイル(登山道)が交差する場所だ。カチェマック・ベイ州立公園には、Humpy Creekと名のつくトレイルが2つある。ひとつはHumpy Cr. South、もうひとつはHumpy Cr. Northだ。このどちらも、Humpy Creek沿いを走っているわけではなく、この川の北側と南側に位置する、というただそれだけなのだ。一部川に沿って歩くことのできる部分もあるが、どちらもすぐ川から離れてしまう。

地形図をよく見ると、Humpy Creekの右岸、河口から1.5マイルほど行った場所にキャビンがある。だが、そのキャビンへと通じるトレイルの記載はない。なんだか日本の岩魚釣りの気分になってきた。地形図を見て、記載のない仙道を探すのだ。最初は右岸をうろうろして、トレイルヘッドらしき場所を手当たり次第にチェックしたが、どれも100mほど進むとスプルースの密林となり、進めなくなった。1時間ほど道を見つけようとがんばってみたが見つからない。あきらめてとりあえずHumpy Creek Trail Southに入り、この道が川から離れる所まで行ってみることにした。

海岸からコットンウッドとスプルースの森へと風景は変わり、熊の気配がしだした。みんなで大声を出し、歌を歌った。

ところで、カチェマック・ベイ州立公園には黒熊しかおらず、ヒグマは生息していない。しかし、聞くところによれば、アラスカやカナダでは、ヒグマより黒熊に襲われる事故の方が多いとのことである。20代前半にカナダとアラスカをバックパッキングで回ったが、その旅の先々で耳にしたのは、やはり黒熊の事故だった。

河口から15分ほど歩くと木の橋が川に架かっていた。橋に上がり、水の中を覗くと私は思わず声を上げた。「Chumだ!1匹や2匹じゃない、たくさんいるっ!」それまでの疲れと熊への恐怖はそこで一気に吹き飛んだ。

橋を渡り終えてすぐ、上流へと続く細いトレイルが本線から出ている場所に来た。この細いトレイルは地形図にもガイドブックにも乗っていない。「これだな。きっとBlack Bearが沢山いるぞ・・・」Garyがトレイルに残された新鮮な黒熊の糞を指差しながら言った。私は腰に付けたペッパースプレーの安全装置に手をかけた。
(続く)


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10/20/2007

まだ見ぬ川 Humpy Creek ④


出発の朝は雨の音で目が覚めた。アラスカの天気はめまぐるしく変わるので、天気予報を見てもあまり当てにならない。

今回のHumpy Creek釣行の参加者は、私とGaryのほかに、私の妻と息子、友人の子供たちの合計6名だ。ランチを作ったり子供たちのパッキングを手伝ったりで時間が過ぎ、ホーマー・スピットのハーバーに着いたのは待ち合わせの30分過ぎだった。

引き潮が始まらないうちに向こう岸に着かなければならない。私たちは大急ぎで荷物を船に積み込み出船した。

Humpy Creekまでは、スピットからWater Taxiで約30分だ。いつの間にか雨は止んでいた。船は波もなく静かなカチェマック・ベイを進んでいった。Homerの町はどんどん遠ざかり、それまで遠くにあるように見えていたグルーウィンク氷河が青みを増して迫ってきた。氷河に近づくにつれ、水の色は澄んだ青から乳白色に変っていった。

この氷河を通り越して間もなく、船はスピードを緩め岸に近づき始めた。水が濁っていてそこが全く見えない。そして、微かに船底が水底に擦れる音がした。「さあ着いたっ! 早く降りなきゃ潮が引き始めて座礁しちゃうよ!急いで!」と船長にせかされ、あわてて船から下りるべく船首に向かった。船長は手際よく開閉式の階段を水に降ろし、私たちは順番に水の中に降りて行った。ウェーダー(ゴム長)をはいているとはいえ、氷河の濁りのせいで全く水深が読めず、階段から降りて最後の一歩を踏み出すのにはちょっと勇気が必要だった。

そして、全員が船から降り終えたそのとき、船は大きな音を立てて水底に引っかかり、動けなくなった。すでに引き潮が始まっていたのだ。船長が「船をそっちから思いっきり押してっ!」と叫んだ。一番長いウェーダーを履いていた私はあわてて船に取りついた。世界最大の干満差を誇るカチェマック・ベイ。もし座礁したら次の満ち潮までここで待たなければならない。次のお客さんの予約を控えた船長の顔に緊張が走った。神様に祈りながら、私は船を沖に向かって押し続けた。そして、もうこれ以上行ったら水に浸かる、という場所で何とか船はモーターを下ろし、一気に沖へと帰って行った。

遠ざかる船の音が消えると、寂しいくらいに静かだった。対岸のHomerと私たちをつなぐのは、辛うじてつながる携帯電話だけ。新しい釣り場への期待より、不安の方が強くなった。「一体、こんなところに来て、俺たちは何やっているのだろう・・・もし熊に襲われても、誰も助けてくれない。」心が引き締まる思いで私たちは上流へと歩き始めた。(続く)
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10/12/2007

スライドショー(2007年5月下旬~6月上旬)



撮影地:Homer, Ninilchik, Anchorage
撮影時期:2007年5月下旬~6月上旬
魚種:King Salmon

解説:
SilverfinがガイドをしているKenai半島南部のキングサーモン釣りは5月下旬にはじまる。まだ山には雪が残り、また木々の新芽もようやく開き出す頃だ。朝の気温は0度くらいまで下がり、水に立ち込むとつま先が痛くなる。

キングを釣るには、通常のフィッシング・ライセンスの他に、キングサーモン・スタンプを購入する必要がある。また、20インチ以上のキングはシーズン合計5匹しかキープできない。また、川によってルールが異なり、Regulationに加えEmergency Orderを注意深く読む必要がある。

ロッドは#8~9/9ft.をメインに使う。餌釣りの場合はライン、リーダーともに30lb.を使用。餌は加工した筋子玉。フライは#1/0~3/0のグリーン、オレンジ系のものを使用。

10/11/2007

Steelhead









上:2007年9月、Pixeeで釣れた大型のスチールヘッド。シルバーフィンのガイドする地域は、北米大陸のスチールヘッド遡上の北限と呼ばれている。そのためか、釣れてくるスチールヘッドの大きさは、アメリカ本土やカナダのものに比べて小型である。このサイズのものは、ここではかなり大きいほうである。つり人はシルバーフィンの凄腕ガイド、タイラー。Pixeeはあまりに定番すぎて、ベテランからバカにされがちなルアーだが、これを使いこなしている釣り人は実に少ない。タイラーはその数少ないエキスパートだ。

下:9月の朝焼け。日がゆっくり昇るので、朝焼けの時間も長い。
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10/07/2007

アラスカ釣り旅行の手配ってどうやるの? ①

~オススメはキャンピングカーでの旅行~

アラスカ旅行の手配ってどうやったらいいの?と友人たちからよく聞かれる。世話好きな私は、彼らの旅行の準備を手伝うのが大好きだ。一生の思い出となる「アラスカ釣り旅行」は、チケットやレンタカーの手配をするところからもう始まっている。ここでは、ツアーに参加せず、旅行者自ら手配を進めるためのノウハウを紹介する。

航空券
ここ1~2年、私たちの成田~アンカレッジの往復はシアトル/ポートランド経由だ。手配には、①旅行手配のインターネットサイト利用、②旅行会社を通じての予約、③航空会社のインターネットサイト利用 の3つの方法を組み合わせて行っている。まず大体の値段を①旅行手配のインターネットサイトでチェックし、次に知り合いの勤務する小さな旅行会社に問い合わせて見積もりを送ってもらう。たいていの場合私たちは②を利用するが、成田~シアトル/ポートランド往復のチケットだけを②で行い、アンカレッジ~シアトル/ポートランド往復の部分を③(Alaska Airlineのサイト)で直接行うこともある。



私のおすすめはレンタカーとホテルを別々に手配する代わりに、Motorhomeと呼ばれるキャンピングカーを手配することである。キャンピングカーは普通のレンタカーより高額だが、ホテルの手配が要らない分お得なのだ。アンカレッジ国際空港の周辺にあるレンタカー会社を片っ端からインターネットで調べ、空きがあるかどうか、思い切ってメールやFaxで問い合わせてみよう。英文レターの書き方を説明した書籍やサイトには、多少の単語の入れ替えをすることですぐに使える文章例が沢山ある。

ホテル
宿泊を考えている地域の観光商工会(Chamber of Commerce)をインターネットで調べてみよう。観光商工会の発行する小冊子やウェブサイトが最高の情報源だ。ここには、ホテルだけでなく、病院やWater Taxi、フィッシング・ガイドの情報も掲載されている。請求すればこの小冊子を送ってくれるが、ウェブサイトでも十分情報を得ることができる。ホテルやモーテルのリストが掲載されていて、ウェブサイトがあるものにはリンクが貼られている。車の手配と同じく、料金や空きについてメールやFaxで問い合わせてみよう。
※SilverfinはHomer Chamber of Commerceに登録されている。

ここまでが、アラスカに上陸するための最低限の手配だ。次回は、タックルや釣り場のリサーチ方法、ガイドの手配など、アラスカの釣りの準備について説明する。(続く)

まだ見ぬ川 Humpy Creek ③


まずChumを釣るためのタックル選定から始めた。Silverfinでは、Kingには#8~9をメインに#10までを、Silverには#5~6をメインに#8までを使用する。Garyと私は迷わず#5~6を持っていくことに決めた。

フライ用のタックル

Rod: #5-6, 9ft,medium action

Line: WF-F(5)に脱着式シンクティップ(6in/sec, 3ft)を装着

Leader; 10~16lb.を3~4ft.

次はフライである。

普段川に持って行くフライボックスをバックパックから取り出し、あらためて眺めてみる。Wooly Bugger やEgg sucking Leech、Shrimp、Bucktail系のストリーマーなど、大小様々のサーモン用フライがぎっしり詰まっていたが、Chumを釣ることを意識して巻いたフライはもちろん一本も無かった。出発を翌日に控え、新しいフライを巻く時間は全く無かった。そして「Chumだってサケの1種だ。SilverやPinkやKingを釣るためのフライで釣れないわけがない・・・」と自分に言い聞かせ、またフライボックスをバックパックに詰め込んだ。

GaryがWater Taxiの船長に電話を掛けた。潮の干満の差が6mにも達するKachemak Bayでは、接岸のタイミングがとても重要になる。すなわち、上げ潮の時間帯に向こう岸に着かなければ、船は簡単に座礁してしまうのだ。GaryとキャプテンはTide Bookを見ながら待ち合わせ時刻を朝11時に設定した。

(続く)

10/06/2007

まだ見ぬ川 Humpy Creek ②


この未開拓の川へ行くためにまずしなければならないこと、それはまだお客さんの予約が入っていない日を見つけて休みにすることだった。どんなに沢山問い合わせがあっても、その日は絶対にお客さんを入れない!と堅く決意しなければならない。

カレンダーを見ると7月上旬のある日が一日だけあいていた。すかさずその日をブロックした。ところで、今年はキングもドリーも遡上が2週間遅れだった。Humpy Creekには一体何がいるのだろうか。Kachemak Bayの対岸の小河川にはChumとPinkとDollyとSilverが遡上するらしい、ということだけはFish&Gameのデータを通じて知っている。Chumの遡上は7月上旬に始まる。そしてほんの少し遅れてにPinkが入り始める。2週間遅れということであればまずPinkは期待できない。そしてChumも危ういということになる。2人の会話に不安な空気が流れ始めた。

しばらくの沈黙の後「・・・しかし、Chumだけは他のサケと違うかもしれないゾ!」という何の根拠のない発言が飛び出した。いつもならお互いの意見にケチを付け合う私たちだが、そのときばかりは「そうだよなっ!なんてったってChumは他のサーモンと違うからなっ!そうに違いない!」と、妙に同調し、知らずのうちに気分が再び盛り上がっていた。

Chum Salmon。和名はシロザケ。日本人におなじみの新巻鮭のサケである。しかし、Garyも私も、この魚をほとんど釣ったことがなかった。ホームグラウンドのAnchor River,Deep Creek, Ninilchik RiverにはChumの遡上がないのだ。私は2004年秋にKodiak島でSilverを狙っているときに外道で大きなChumを2匹釣ったが、狙ってこの魚を釣ったことはなかった。だから、どんなフライを使えばいいのか、本で得た知識以上のことは知らなかった。Garyは最初からいくらを使うつもりだったが、はたしていくらで釣れるのかどうかも確信が持てなかった。

とにかく不安材用だらけだったが、準備に取り掛かった。(続く)

10/04/2007

まだ見ぬ川 Humpy Creek ① 

私たち家族が夏をすごすHomerは、アンカレッジから車で4時間半、スターリング・ハイウェーの南端に位置する。

私の親友でSilverfinのオーナーであるギャリーは、この地で9年間サーモン/トラウトのガイドを行ってきた。お客さんを案内するのは主にAnchor River,Deep Creek, Ninilchik Riverの3河川である。これらの川は全てハイウェー沿いを流れているため、車でのアクセスが可能だ。多くのお客さんは私たちと1日釣りをしてポイントの見つけ方やこの地域の釣り方など基本的ことを学んだ後、自分たちだけでこれらの釣り場に向かう。

ハイウェー沿いとはいえ、本物のアラスカの釣りが楽しめる。今年も5月末にキングサーモン釣りが始まり、7月中旬まで順調に釣れ続いた。6月には海に下る途中のスチールヘッドがキングに混じって毎日のように釣れ、7月禁漁間近の頃にはシルバーフィン史上最大の45ポンドのキングが上がった。Kenai River や Kasilof Riverのセカンド・ランならたいしたことない大きさだが、このキングは、Ninilchik River というファーストランしかない小河川で上がった魚なのだ。また、7月には例年のごとくドリー・バーデンが大群をなして海から帰ってきた。群れに当たった日は文字通りの入れ食いだった。そして8月のシルバー・サーモン。一度この魚を釣ったら、そのジャンプと強烈な引きを忘れることは一生できないだろう。

このように、Homer周辺には、車で行くことのできる一級の釣り場が十分ある。しかし、どんなに魚が良く釣れても、釣り人にとって「これで満足、もう他のどこにも行く必要がない」と言えるフィールドなんてありえないのだ。釣り人は常に新しいフィールドを求めている。

あらためて地図を広げてみると、私たちのホームグラウンドであるAnchor River,Deep Creek, Ninilchik Riverは、キーナイ半島の片隅を流れていて、他にも沢山の河川がHomerの周辺に点在していることがわかる。Homerは東西南の3方を海に囲まれている。西側のCook Inlet対岸には活火山のRedoubt山と無数の河川がある。そのいくつかはキングサーモン釣りで有名で、水上飛行機があれば最高のポイントに行くことができる。しかし、ギャリーは水上飛行機を持っておらず、またチャーターする金銭的余裕もないのだ。

そこで南西側を見ると、Kachemak Bayという、とても狭い入り江の対岸に無数の河川が流れているのが見える。そのいくつかは氷河と海を結ぶ短距離の流れで、とても魚が釣れそうではないが、もっと地図を良く見ると、山上湖を水源としていて傾斜もきつくない、いわゆる「魚臭い」河川がいくつかあるのがわかる。

もう少し良く調べてみると、Kachemak Bayの対岸は「Kachemak Bay State Park」という州立公園で、ここにハイキングやキャンプに行く人たちを運ぶ渡し舟(Water Taxiという)が運行しているのがわかった。これは水上飛行機よりずっと安い。

私とGaryが目を留めたのは、Humpy Creekという小さな川だ。サケ釣りの経験を重ねるにつれ、どのような川にサケが上がるのかがだんだんわかってくる。この川は、明らかに何種類かのサケの遡上があるように見えたのだ。(続く)